がん検診(胃がん・大腸がん)Q&A
みなさまからよく尋ねられるご質問・疑問にお答えいたします。
詳細はお近くの病院・医師やお住いの地方自治体(都道府県,市町村)の検診担当までご相談ください。
参考文献
- 平成16年度厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン
- 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」2014年度版
参考になる情報
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- がんの治療に関する無料電話相談 国立がん研究センター 相談支援センター
- 厚労省のがん検診に関する情報
- 地方自治体(都道府県,市町村)のホームページにも検診情報がありますので,各自ご確認ください。
がん検診全般について
- 1.がんは防げますか?
- がんを100%防ぐことはできませんが,がんになりにくくし,予防することはできます。がん死を予防するには,がんにならないようにする「一次予防」,がんになっても早期に発見・治療して根治する「二次予防」があります。一次予防はがんになりにくい食事・生活習慣などに努め,がんのリスクとなるものをできるだけ避けることが必要です。二次予防は,症状のないうちに定期的にがん検診を受けることです。
- 2.がん検診とはどのようなものですか?
- がん検診とはがんを対象にした検査で,症状のない健康な人の中からがんを持っている人を見つけるものです。がんの死亡率を減少させるために,行われます。対象となるがんによって検査方法が異なります。がん検診は「スクリーニング(ふるい分け検査)」といって,特に問題所見のない人と多少でもがんの可能性が疑われる人をふるい分け。疑い所見のある場合は,精密検査を受けていただくよう説明・通知します。
- 3.がん検診は症状がなくても受けなくてはいけませんか?
- がん検診は健康と思われる無症状の人を対象に,がんを早期に発見するために行うものですので,お受けください。症状があり病気が疑われる人は,病院を受診し,診療を受けましょう。
- 4.がん検診のメリット,デメリットを教えてください。
- がん検診には,メリットもデメリットもあります。このことをよく知ったうえで検診をお受けください。ここでは一般的なことを説明します。
【メリット】- 最大のメリットは,早期発見・治療による救命です。
- 早期であれば,一般的に治療も軽く,身体的・経済的・時間的負担も少なくなります。
- 前がん病変がみつかり,それを対処できることもあります。
- 「異常なし」の判定で安心感がえられます。
- 100%完璧な検査はありません。検査も年々優れてきていますが,100%ではありません。小さかったり,部位がわかりずらいなどの場合,検査で発見できないことがあります。「異常なし」の判定でも症状があれば,病院を受診しましょう。
- 精密検査を受けても,がんのない場合があります。なにもないのでよかったと言えますが,その時まで無用な心配をし,精密検査をうけたことの肉体的・精神的負担や,金銭・時間もかかります。また,検診で見つかるがんには微小で,天寿を全うするまでに,進行がんにまでならないがんの可能性もあります。
- 検査の偶発症(検査に伴って,たまたま生じる不都合な症状)がある場合があります。検査によりますので,詳細は各項目をご覧ください。
- 以上のように検診には,メリットもデメリットもありますが,総合的に見て,メリットがデメリットを上回るので,検診として実施されています。
- 5.がん検診はいつどこで受けられますか?
- 地方自治体(都道府県,市町村)が,がん検診だけでなく一般の健康診断や人間ドックの案内をしています。また,自治体が実施する巡回検診だけでなく,自治体から委託を受けた医療機関(健診施設)ががん検診を実施する場合もあります。これらの検診は原則誰でも受けることができますが,対象年齢や実施時期,費用などは自治体によって異なりますので,詳しいことはお住いの自治体の窓口にお尋ねください。
また,地方自治体が実施するがん検診とは別に,健康診断や人間ドックの一部としてがん検診を行っている健診施設や病院も増えています。
胃がん検診について
- 6.今病院にかかっています。胃がん検診は受けた方がよいでしょうか?
- 胃腸の病気を専門とする医療機関なら,その病院に相談することが望ましいですが,もし胃腸関係以外の病気でかかっていて,胃腸専門の医師がいない場合は胃がん検診の受診をお勧めします。また,現在かかっている病気に影響のある検査や薬もありますので,主治医には事前に相談されることをお勧めします。
- 7.胃がん検診にはどのような方法がありますか?
- 胃の検査法としては,バリウム(硫酸バリウム)を飲んで胃のエックス線写真をとる「胃エックス線検査(いわゆるバリウム検査)」と「胃内視鏡検査(いわゆる胃カメラ検査)」があります。この二つの検査法は胃そのものを診る検査法です。現在のところ胃がんを直接診断する方法として,科学的証拠の基に効果があるとして推奨されているのは,この「胃エックス線検査」と「胃内視鏡検査」の二つです。
- 8.胃エックス線検査(バリウム検査)はどのようなものですか?
- 胃自体はエックス線には写りません。胃の壁の状態を診るためにはエックス線に写るように工夫する必要があります。つまり,胃の壁にエックス線にうつる物質(造影剤と言います)を塗りつければエックス線に写すことが出来ます。胃エックス線検査の時に,にバリウムという造影剤と発泡剤(胃を膨らませる薬)を飲んで貰い,体を回転してもらいながら撮影する検査です。胃がん検診では胃がんを見つけることが目的で,通常8枚から10枚程度のエックス線写真を撮影します。検診のエックス線検査で「がん」 を疑う像があれば精密検査を受けていただきます。そのため良性の病気である潰瘍(かいよう)やポリープ,潰瘍瘢痕(かいようはんこん,潰瘍の治ったきずあと)なども発見されています。
- 9.胃エックス線検査(バリウム検査)での放射線被曝が心配なのですが。
- 胃エックス線検査での放射線被曝量は,低減の工夫も重ねられ,特に最近のデジタル装置の開発により大きく減少しています。検診での撮影枚数は8枚から10枚程度ですので,現在の撮影装置だと検査1回当たりの被曝量は1年間に被曝する自然放射線量と大差なく,健康に影響を与える放射線被曝は殆どないと考えられています。しかし,放射線ですから,全く無害とは断定できないので,妊娠可能性のある女性は受診していただきません。また,病気の罹患率(かかる割合)の低い, 40歳未満などは男女とも検診受診勧奨の対象からは外しています。
- 10.内視鏡検診とはどのようにして,どこでうけるのでしょうか?
- 内視鏡検診は通常は医療機関で行っています。人間ドックなどを行っている健診施設では,胃エックス線検査(バリウム検査)だけでなく内視鏡検査(胃カメラ検査)も選択できる場合があります。
一部の市町村では病院だけでなく多くの開業医の先生が内視鏡検診に協力しているところもあります。 その場合は市町村役場等に問い合わせてください。
内視鏡検査は管を胃の中まで挿入して先端の小型カメラ (CCD) またはレンズを通して胃を中から観察します。内視鏡を口から挿入する方法の他に,最近では鼻から挿入する経鼻内視鏡が進歩し,検診には経鼻内視鏡を用いる施設も増加しています。口から挿入する内視鏡では胃の動きを止める鎮痙剤(ちんけいざい)注射と咽喉(のど)の麻酔に加え,半睡眠状態で行うために鎮静剤(ちんせいざい)を注射する施設も少なくありません。経鼻内視鏡では鎮痙剤注射は必要ですが, 咽喉(のど)への刺激はないことから咽喉(のど)の麻酔も鎮静剤も用いません。ただし,耳鼻咽喉科の病気のある人は前もって相談していただく必要があります。
- 11.胃がん検診で要精密検査と言われた場合,どこを受診したらよいでしょうか?
- 胃腸を専門とする医師のいる病院・医院の受診をお勧めします。地方自治体(都道府県,市町村)で精密検査を行う医療機関を指定している地方もあります。検診実施機関や市町村またはかかりつけ医に相談してください。
- 12.胃の精密検査はどのような検査でしょうか?
- 通常,検診で行う胃エックス線検査(バリウム検査)は病気の疑い所見を拾い上げることが中心で,確実に胃の病気を診断することが目的ではありません。精密検査で再度胃エックス線検査を行う場合と内視鏡検査を行う場合があります。
再度の胃エックス線検査では,検診より詳しく,多くの写真を撮影します。最近は精密検査では,内視鏡検査をすぐ行うことが多くなっています。検診では経鼻内視鏡を用いることも増加しつつありますが,精密検査では少し太くても,より高精度の画像が得られ,診断のための画像拡大や色調調整などの機能のある経口(口から挿入する)内視鏡が用いられています。検査の前に胃の動きを止める鎮痙剤(ちんけいざい)を注射するとともに,咽喉(のど)反射等を抑えるための局所麻酔剤(咽喉への噴霧やゼリーの塗布など)と注射(鎮静剤,ちんせいざい)等の事前処置を行います。
胃の中を詳しく診るために胃の中に空気を送り,胃を膨らまして観察します。また,胃の壁から少量の胃の組織を採取(生検,バイオプシーといいます)して,病理学的検査を行う場合があります。
- 13.毎回精密検査が必要と言われるのですが,その度ごとに受けるのでしょうか?
- どんな小さながんでも必ず一回で発見できるという検査法はありません。検査で発見できるためにはある程度以上の大きさや明確な所見が必要です。また,がんと区別することが難しい胃潰瘍(いかいよう)や胃のポリープ,変形などがある場合には,毎回精密検査が必要と判定されることがあります。毎年精密検査必要とされ,その都度精密検査で「がんはない」とされても,その次の年も同じという保証はありません。精密検査が必要と言われたら必ず精密検査をお受けください。
- 14.胃がんと診断された場合どのような治療法があるのでしょうか?
- 現在では,早期がんの大半は内視鏡で切り取るだけの治療で済むようになりました。内視鏡的粘膜剥離術(ESD)と言います。この治療法に要する時間は数時間位です。入院は施設によって異なりますが1週間までの病院が多いようです。
ESDでの切除が困難な場合でも,比較的早期であれば開腹手術ではなく腹腔鏡(ふっくうきょう)による手術が行われます。腹部に数箇所小さな穴を開けて腹腔鏡で観察しながら他の穴から操作してがんのある部分を含めて胃を切除します。腹腔鏡手術では困難な場合は開腹手術となります。進行がんの場合は切除した後でも,抗がん剤治療を行うことがあります。
なお,上記は一般的な情報で,詳細は病状で大きく違いますので,医療機関にご相談ください。
- 15.胃がん検診で,不利益なこと(副作用,偶発症など)が起こることはないですか?
- 検診では,比較的安全な検査法を用いることを原則として採用していますが,生体に何らかの刺激を与えるのですから完全に無害なものはありません。胃エックス線検査で,バリウムが誤って気管にはいること(誤嚥)が起こることがあります。また,バリウムがなかなか排泄されずに便秘になったり,ごく稀にはバリウムが詰まって腸に穴があき緊急手術が必要となることもあります。また放射線を照射しますから放射線被曝の影響を考慮して検診の対象者を40歳以上としています。
内視鏡検診では,前処置として行う注射や麻酔剤によりショック等の危険が稀にあります。また,胃に空気を入れて内視鏡を操作し生検も行ったりすることから胃の粘膜に穴が開く(「穿孔(せんこう)」といいます)ことも極めて稀ですがあり得ます。専門の医療機関ではそれらに対処するための予防策や,起こった時の対応策をしっかり準備しています。検査を受ける前には検査の準備や内容等を詳しく担当医から説明して貰ってください。
- 16.胃の中に「ピロリ菌」がいるそうですが,どのようなものですか?
- 胃の中は酸性が強い場所ですから,細菌は住むことはできないと長い間考えられてきました。しかしながら,ピロリ菌(正式名称:ヘリコバクターピロリ)は食物に含まれる尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する力が非常に強く,アルカリ性であるアンモニアで自分自身を守りながら胃の中で棲むことができると考えられています。ピロリ菌の慢性感染は幼い子供のころ起こります。大部分は人から人への感染で起こり,家族内での感染が最も多いと言われています。ピロリ菌感染が慢性に持続すると胃粘膜には炎症が起き,そして,個人によりスピードに差はありますが,胃粘膜の老化現象でもある萎縮(いしゅく)が生じます。そして,炎症を背景として胃潰瘍や十二指腸潰瘍,一部の胃がん,ある種のリンパ腫(胃マルトリンパ腫)などが発生し,萎縮を背景として胃がんや胃腺腫などが発生します。胃がんが発生した日本人を調べてみますと,その大部分(99%)はピロリ菌に感染している状態か,以前にピロリ菌に感染していたことのある状態であると報告されています。もちろん,ピロリ菌に感染している人全員に胃がんが発生するわけではなく,0.5%/年の発生率と考えられています。一方,ピロリ菌に全く感染したことのない人に胃がんが発生することは大変少ないと考えられています。
- 17.ピロリ菌の検査を受けたいのですが,どうすればよいのでしょうか?
- ピロリ菌の検査と除菌治療は,2016年1月現在,胃潰瘍・十二指腸潰瘍,早期胃がん内視鏡治療後,胃マルトリンパ腫,免疫性血小板減少症,ピロリ感染胃炎に対して,保険診療が可能です。胃炎では,内視鏡検査(胃カメラ)で胃炎があった場合に,保険診療でピロリ菌の検査が行えます。内視鏡検査時に組織を採取しピロリ菌の検査を行ったり,そのあと血液や便の検査などでも検査を行うことができます。
なお,人間ドックや検診で行った内視鏡検査(胃カメラ検査)も認められますから,その資料を医療機関に持っていけば,呼気や便,血液,尿の検査でピロリ菌の検査を行うことが可能です。また,人間ドックなどでピロリ菌検査を有料で行っている医療機関も少なくありませんので,医療機関で相談してみてください。
- 18.ピロリ抗体が陽性といわれました。どうすればよいでしょうか?
- まず,内視鏡検査(胃カメラ検査)を行い,胃がん,胃潰瘍,十二指腸潰瘍などがないか,確認してもらうことをお勧めします。そして,内視鏡検査で胃炎と診断されたならば,ピロリ菌の除菌治療も考慮してください。除菌治療には胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発予防,胃がん発生リスクの低下など大きなメリットがありますが,治療薬の有害事象(副作用)や除菌治療後の逆流性食道炎などのデメリットもあります。また,胃がん発生をゼロにすることはできないという限界もあります(Qリスク6もご覧ください)。担当医からこれらのメリット・デメリット・限界について十分な説明を受け,理解した上で除菌治療を受けることが肝要です。
- 19.胃がんリスクとはどういう意味ですか?
- すべての病気に言えることですが,病気にはなりやすい人となりにくい人がいます。胃がんについてもすべての人に同じ確率で発生するわけではありません。胃がんになりやすい人,なりにくい人に分けることが胃がんリスク分類です。胃がん発生にはピロリ菌感染が大きく関与しています。現在までのわが国の胃がんはピロリ菌感染が継続している人,あるいは,以前に感染していたことのある人が大部分(99%)を占めており,ピロリ菌に感染していない人から胃がんが発生することはまれです。また,ピロリ菌に感染している人の中でも胃粘膜萎縮(胃の老化現象)が進んだ人では胃がんリスクが高いことが分かっています。
- 20.ABC分類とはなんですか?
- 血液検査で胃がんリスクを分類する方法です。ピロリ菌感染状態を血清ピロリ抗体で検査し,胃粘膜萎縮(老化現象)の状態を血清ペプシノゲン法で推定して,その組み合わせで胃の健康度,胃がんリスクを分類します。血清ピロリ抗体(−)血清ペプシノゲン法(−)をA群,血清ピロリ抗体(+)血清ペプシノゲン法(−)をB群,血清ペプシノゲン法(+)をC群と分類しています。なお,C群については,血清ピロリ抗体(+)をC群,血清ピロリ抗体(−)をD群と分けることもあります。(下記表参照)
A群 B群 C群 D群 血清ピロリ抗体 (−) (+) (+) (−) 血清ペプシノゲン法 (−) (−) (+) (+) 胃がんのリスク A < B < C・D
- 21.ピロリ菌を除菌しても検診が必要ですか?
- ピロリ菌を除菌治療しますと胃がん発生リスクが除菌前より低下すると期待されています。しかしながら,ピロリ菌に全く感染したことのない人と同じレベルになるわけではありません。除菌治療に成功した後も定期的に内視鏡検査(胃カメラ検査)あるいは胃エックス線検査(バリウム検査)が必要です。引き続き胃がん検診を受けてください。
なお,ピロリ菌除菌成功後に仮にABC分類を行ってしまいますと,大部分がみかけ上‘A群’と判定されてしまいます。A群であっても,ピロリ菌に全く感染したことのない人と,除菌後の人の胃がんリスクは明らかに異なりますから,除菌後の人はABC分類を行わずに,内視鏡検査あるいは胃エックス線検査(バリウム検査)を定期的に受けてください。
- 22.ピロリ菌の既感染(過去に感染していた状態)といわれましたが,検診はどうしたら良いですか?
- ピロリ菌の既感染(過去に感染していた状態)には,ピロリ菌除菌後の人,他の病気で抗菌薬を内服した時などに偶然除菌された人,あるいは,ピロリ菌感染による胃粘膜の萎縮(いしゅく)が非常に進行し,ピロリ菌が検出できなくなった人が含まれます。過去にピロリ菌が感染していたことのある人ですから,毎年胃がん検診(内視鏡検査あるいは胃エックス線検査)を受けることをお勧めします。
大腸がん検診について
- 23.大腸がんは最近増えているのでしょうか。また,その予防策はあるのでしょうか?
- 大腸がんは着実に増えています。2014年のがん死亡(男女合計)では,大腸がんは肺がんに次いで第2位で,2015年のがん罹患予測では大腸がんが第1位です。大腸がんの増加の要因には他のがん同様、高齢化があげられます、他に肥満運動不足,飲酒と喫煙が大腸がんの危険因子です。大腸がんの予防法として効果が確実なのは運動です。
- 24.大腸がん検診を受けるメリットはなんですか?
- 大腸がん検診の最大のメリットとは,大腸がんで死亡する危険性が減ることです。現行の5つのがん検診の中で,大腸がん検診は子宮頸がん検診と並んでもっとも効果が確実です。さらに発見された大腸ポリープ(腺腫)の切除により大腸がんになる危険性をも減らすことが出来ます。
- 25.大腸がん検診はどのように行われるのですか?
- 自治体(市町村)の検診として広く行われているのは,便潜血検査です。特殊な容器に2日分の便を採って便の中に潜む,目に見えない微量の血液(便潜血)が混じっていないかどうかを調べます。便潜血陽性の場合には,大腸内視鏡検査によって大腸がんがないか確認が必要です。人間ドックでは最初から内視鏡で大腸を観察することもあります。
- 26.大腸がん検診ではすべての大腸がんを診断できますか?
- 便潜血検査による検診の有効性はがん検診の中でももっとも確実な根拠があります。しかし他のがん検診と同様に,便潜血検査ですべての大腸がんを発見することはできません。
定期的に検診を受ければ浸潤大腸がん(がんが粘膜よりも深い層に及んでいるもの)の約8割を見つけることができますが、残りの2割の大腸がんでは便潜血陰性となってしまいます。しかし、検診後に自覚症状等がきっかけとなって大腸がんが発見されても大腸がん検診を受けずに発見された大腸がんより治る割合が高いことがわかっており、大腸がん検診の有効性を裏付けるものといえます。
- 27.大腸がん検診の精密検査はどのような検査でしょうか?
- 原則として内視鏡で大腸全体を観察して病変が無いかどうかを確認します。大腸全体を内視鏡で検査することが困難な場合には,直腸からS状結腸までを内視鏡で観察して奥の大腸はX線(注腸X線検査)で見る方法もあります。また最近ではCTを用いた大腸検査も行われるようになっていますが,前処置,被曝線量,読影法等が必ずしも統一されていないため,今後,標準化が必要です。
- 28.毎年便潜血陽性ですが,毎回精密検査が必要でしょうか?
- 大腸に病気がないにもかかわらず便潜血が毎年陽性になることは多くありません。便潜血陽性になったらその都度,精密検査が必要です。それでも繰り返し便潜血陽性になる場合には,主治医にご相談ください。
- 29.便潜血陽性なのに精密検査では異常ありません。原因はなんでしょうか?
- 便潜血が陽性になっても,精密検査で大腸がんやポリープ(腺腫)が見つからないことが多々あります。ごくわずかな出血が誰にでもあることは古くから知られており、これを生理的出血と呼び,採便時、便を多くとり過ぎると陽性になりがちです。便潜血陽性でありながら,精検で「異常なし」となる例の多くは生理的出血です。 痔と便潜血検査にはあまり関係がありません。痔の有無にかかわらず,便潜血陽性の場合には大腸がんの可能性がありますので,必ず精密検査を受けてください。
- 30.大腸がん検診で大腸がんが発見されたら治るのですか?
- 大腸がんは他のがんと比較しても極めて治る可能性が高いがんです。また2013年の日本消化器がん検診学会の「全国集計調査」によれば,大腸がん検診で発見された大腸がんのうち48%は開腹することなく内視鏡治療で済んでいます。安心してください。
- 31.大腸がん検診を受けて,不利益なこと(副作用,偶発症など)が起こることはないですか?
- 便潜血検査自体は体に負担などはありませんが,精密検査として行われる大腸内視鏡検査には大腸穿孔等の偶発症があります。日本消化器内視鏡学会の2010年全国集計によればその頻度は0.078%(1,280回に1回)です。ただし便潜血検査が陽性となったにもかかわらず精密検査を受けずにいて大腸がんが発見された場合には,大腸がんによる死亡の危険性が精密検査を受けた場合の約4倍にもなりますので,必ず精密検査を受けてください。要精検率をどこまで引き下げられるか,今後も検討が行われます。大腸がん検診は不利益よりも利益の方がはるかに大きいですから,是非お受けください。
- 32.生活習慣(病)と大腸がんが関係ありますか?
- 大腸がんの原因は他のがん同様、まず加齢ですが,他に肥満,飲酒,喫煙が挙げられます。リスクを下げる確実な要因として運動が知られており、他に食物繊維の摂取も勧められます。
その他
- 33.食道がんの検診はありますか?
- 早期の食道がんの多くは症状がなく,たまたま検診や他疾患の検査などで発見されます。早期の食道がんの90%は内視鏡検査で,5%がエックス線検査で発見され,進行がんでは15%がエックス線検査で発見されます。したがって,早期の食道がんの発見には内視鏡検診の診断能が高いと考えられます。しかし食道がんの検診法として有効とわかっている方法はありません。なお,胃エックス線検査(バリウム検査)による胃がん検診では,食道は観察できないのが一般的です。
- 34.食道がんのリスクは何でしょうか?
- 食道がんには2つの種類があります。わが国で圧倒的に頻度の高い扁平上皮がんは,男性,60〜70代に好発し,飲酒と喫煙がリスクとされています。特に,お酒を飲んで顔が赤くなる人は要注意です。 一方,わが国では頻度の低い腺がん(バレット食道がん【注】)は,欧米では食道がんの半数以上を占めており,胃食道逆流症(逆流性食道炎など胃酸が食道に逆流する状態),肥満,喫煙がリスクとされています。
【注】食道の粘膜はもともと扁平上皮(へんぺいじょうひ)におおわれていますが,胃の粘膜と似たタイプの円柱上皮(えんちゅうじょうひ)で置き換えられたものを「バレット食道」と言います。バレット食道にできたがんをバレット食道がんと言います。