一般社団法人 日本消化器がん検診学会

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ヘリコバクター・ピロリ除菌療法に関する理事会声明

平成25年4月
一般社団法人日本消化器がん検診学会
理事長 深尾 彰

平成25年1月31日開催の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会において承認されましたヘリコバクター・ピロリ除菌療法に胃炎を追加する件について検討し、日本消化器がん検診学会理事会として以下のような見解に至ったことをご報告します。

1. 除菌治療に当たっては、除菌による胃がん発生予防効果は限定的であるため、治療後の胃がんスクリーニング検査を継続して受診していく必要があることを説明すべきです。

 今回の適用拡大により、除菌治療の目的として、消化性潰瘍の再発予防を含めた治療に加えて、胃炎が追加されました。国内外でこれまで行われたピロリ菌感染者の除菌治療の有効性に関する複数の比較試験で、除菌治療実施群の胃がん発生リスクは非実施群に比べて減少したことが報告されていますが、除菌治療実施群の胃がん発生が0になったという報告が無い事はもちろん、発生リスクが検診不要、あるいは無視出来るレベルにまで低下したという信頼できる報告もありません。このことは、除菌治療が成功しても、すでに慢性萎縮性胃炎や腸上皮化生など前がん状態にある場合は胃がん発生が一定の頻度で起こることを意味し、除菌治療後にも胃がんのスクリーニング検査を継続して実施していく必要があります。スクリーニング検査としては、治療を行った主治医が定期的に内視鏡検査を継続して行うことが理想的ですが、検査の処理能力や患者のアドヒアランス等の点で継続性に問題が残ることから、現在対策型検診として実施されているX線検査による胃がん検診の重要性に変わりはありません。以上のように、除菌治療を実施するにあたっては、患者の皆様に対して、効果の限界に関する事前の充分な説明と適正な事後指導が不可欠と考えられます。

2.胃がん対策にどのような形で除菌治療を組み込むかは未解決の課題であり、エビデンスを検証しないまま一般集団を対象とした検診などと組み合わせた形での無計画な除菌治療への誘導は行うべきではないと考えます。

 最近、血清ピロリ抗体と血清ペプシノゲン値の組み合わせで予測される胃がんの発生リスクを4段階に分類し、リスクの高い集団に集中的に内視鏡検査を実施していくという方式の胃がん検診(いわゆるABC検診)を、標準法であるX線検査に代わる検診として導入する動きが一部であります。この検診により一般集団から容易にピロリ菌感染者を拾い上げ、除菌治療に誘導することが可能なことから、除菌治療による胃がん予防を標榜してこの検診を拡大していく可能性があります。この血清マーカーを用いた検診については、実施方法そのものが確立されたとは言い難いものであり、死亡率低減効果等、有効性のエビデンスが得られていないことから、対策型検診としては推奨されていない現状を踏まえますと、除菌治療を組み込んだこの検診を計画的な比較試験等による適正な評価を経ることなく拡大していくことは、看過できない大きな問題であると考えます。
 本学会では、附置研究として「胃がんリスク評価に関する研究会(代表世話人:吉原正治)」を設置し、血清マーカーによる胃がんのリスク評価の妥当性やそれを応用した画像診断との組み合わせによる胃がん検診の在り方について検討を始めていますが、今後は除菌治療の普及・拡大の影響を勘案して検討を進めていくことにしております。

以上

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